多摩川にさらす手作りさらさらに何ぞ子の児のここだ愛しき


多摩に住む者としてまずはこの歌から始めたい。

 

多摩川にさらす手作りさらさらに何ぞこの児のここだ愛しき

             巻14・3373

東歌の代表ともいえる武蔵国の歌。

2021年7月に多摩川近くにある狛江市の万葉歌碑を訪ねた。

多摩川の流域は麻の生産地であり、現在の府中市はかつての国府であった。その下流の調布は律令時代に「調」となる「布」(麻布)の集積地である。

 麻布はごわごわとしておりそれを柔らかくするために布を川にさらす作業をする。この歌はそのときに歌われた民謡である。川の流れのさらさらと、作業するときのさらさらとが一体となっている。さらにその作業をしている子はこんなに可愛い、何て愛おしいのだ、とおおらかに歌い上げている。

 

訪れた日も夏空に多摩川の川面がきらきらと光り、集まる人たちも思い思いに多摩川を満喫していた。